伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)~死に至る価値観~

1月25日 国立文楽劇場 千穐楽 第一部を観劇してまいりました。

医師大場道益(おおば どうえき)の妻である小巻

(人形遣い 吉田簑紫郎)が鍵を握る

この演目は奥州54群 領主「伊達義綱」隠居

に伴い家督を継いだ幼い鶴喜代君を暗殺せ

んと企む、いわゆる伊達家お家騒動のお話

です。

 

江戸幕府が、当時、民衆への影響を懸念し

芝居への武士の実名や、地名使用を禁じた

事から、あからさまなタイトルではなく、

あくまでも、フィクションを装うために、

あて字が使われています。

 

時代も江戸から、鎌倉に時をうつして描かれています。

しかしながら、当時、萩で有名…と言えば

東北は仙台、又、お茶屋通いで洒落者、

領主綱宗が履いていた下駄が、伽羅 きゃらで

あったことから、先代の前にその文字をあて

敢えて、

「めいぼくせんだいはぎ」

とした洒脱なタイトルには感服するばかり

 

 

公演は1月25日に終了しましたが、

又、いつの日か

「伽羅先代萩」が芝居でかかったら

是非ともご覧じあれ。

 

主君への忠義…そないに大事かぇ?

とついホロッと涙が出てしまうのです。。。

 

政岡の打掛けは伊達家の紋、

竹に雀 が刺繍をほどこされた見事なもの。

衣装も武士の妻らしく皆、打掛けを

さり気なく扱う様も大好きな見どころの一つです。

人形遣いさんがもちろん、打掛をさばく訳ですが、

主遣いさんが右手、左遣いさんが左手、と

両の手は別人が扱います。

それなのに、あの武士の妻達の

立ち居振る舞いの凛としたこと。

 

次回はきっと、きっとチェックしてくださいませ。

 

○死に至る価値観

忠義と裏切り。。。政権争い。。。

家督争い。。。

親子の情け。。。

現代とはまるで異なる世界です。

何よりも大事はわが子、ではなく御主への忠義。

すさまじいばかりの忠義心を見る芝居です。

 

政岡は美しい竹に雀の打掛で幼くして家督を継承した

鶴喜代君の乳母であり、同い年の千松の母親でもあります。

 

政岡らの周囲は家督を継いだ鶴喜代君を暗殺せんとたくらむ

肝臣ばかり。いつ毒を盛られてもおかしくはない状況にあります。

政岡は何としてでも鶴喜代君をお守りしなくてはならない、と

大事な我が子に毒が出されたら臆せずにまず千松が食すのだ、と

教え込まれています。

まだまだ、幼く母親の言い付けを守り、

良い子だ、良い武士だと褒められたい

一心のかわいらしい千松。

おそらく毒を食らうとどうなるのか、など

全く想像だにできないほど幼い千松です。

その子が企みにより、母の常なる言い付けに従い

頼朝公から下された菓子(毒入り)を

食べて鶴喜代君の危機一髪を救います。

 

その時の母である政岡の毅然とした振る舞いにまんまと

騙されて菓子を届けに来た栄御前は

これは千松と鶴喜代が実は入れ替えられてあったのだ、

だから、目前の千松の死に対して母政岡は平気であった、

と一人合点するわけです。

後に医師の妻 小巻が栄御前を誘導して一人合点させるよう

誘導したことが分かる筋書きになっています。

 

誰も居なくなった時に政岡は気も狂わんばかりに嘆くのです。

「三千世界に子を持った親の心は皆一つ。

子の可愛さに毒なもの喰ふなと言うて

叱るのに、

毒と見えたら試みて死んでくれい、と言うような

胴欲非道な母親がまたと一人あるものか。」

 

現代では主君への忠義の為に

大事なものを犠牲になどできるでしょうか、、、

 

その心を演じる文楽の技芸員の皆さんが

1月3日から25日、と長い間、その心根を演じ続ける

のは誠に並大抵な事では出来ないだろう、と

そこにも感服してしまうのです。。。

 

梅川と忠兵衛 ~メルセデスに乗ってどこまでも~

平成31年初春文楽公演 2部 【冥途の飛脚】より 道行相合かごの段

 

上記の動画は、平成29年12月26日

梅田グランフロント メルセデスme での催し。

世話物で有名なあの近松門左衛門の心中物の名場面です。

雪がしんしんとふる寒空。

メルセデスに乗ってどこまでも逃げていく男女なのです。

 

平成31年初春文楽公演 公式HPはこちら 

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2018/2358.html

 

傾城阿古屋 2019年正月公演 男前と粋

平成31年(2019年)初春文楽公演1月3日~25日まで 大阪日本橋 国立文楽劇場にて 第二部(午後4時開演)冥途の飛脚 壇ノ浦兜軍記 の構成。平成24年(2012年)以来の公演です。阿古屋の主遣いはもちろん桐竹勘十郎さん。

当時の人格者として信頼の厚い代官 畠山重忠とその対曲ともいえる代官 岩永の2名による阿古屋への責めの場面が描かれています。その責め道具として粋にも三曲‐琴、胡弓、三味線の演奏の乱れをもって傾城・阿古屋に源頼朝暗殺を企てた恋人、悪七兵衛景清の行方の真偽を探ろうとするお話しです。恋人のために凛とした佇まいで三曲の演奏をしてのける傾城(芸子)阿古屋に惚れ惚れしないはずがありません。

 

【壇ノ浦兜軍記】阿古屋琴責の段の傾城 阿古屋

游君 阿古屋 頭は傾城。ヘアスタイルはたて兵庫という華やかなもの。一体何

本の簪や飾りだろうかと、いつまでも眺めていたいお人形さんなのです。また、

それにもまして衣装の豪華なこと。ダラリの帯は文楽では三曲演奏の時にははず

していますが、歌舞伎の坂東玉三郎さんが演じられる際には確かそのままであっ

たような気がします。豪華絢爛を身にまとった傾城 阿古屋の裁判での2名の代

官による交互の厳しい証人喚問のシーン。

いとしい恋人 景清の行方をあくまでも知らぬ存ぜぬと身重でありながら、涼し

い顔で言ってのけるその強さ、しかし時の大将源頼朝の暗殺を企てた大悪人の恋

人を案じ、もう会うことも無い、と知っている阿古屋の心中を察すると、舞台の

お人形さんはもはや人間以上の切なくも麗しい存在と化すのです。

 

阿古屋琴責の段 素浄瑠璃はこちら! 

 

◎2019年正月公演【壇ノ浦兜軍記】

日本文楽劇場のHPはこちら

 

◎男前と粋

・岩永の恐ろしい脅迫に対して

阿古屋「おほほほほ。。そんな事怖がって苦界(クガイ)が片時なろうかいな。同じように座に並んで殿様顔してござれども意気方は雪と墨。重忠さまの計らいとて榛沢さまの今日の詮議。縄もかけず責めもなく六波羅の松蔭にて物ひそやかに義理づくめ様々といたわりて『さあ、景清が行方は?』と問われし時のその苦しさ、水責め、火責めは堪へうが、情けと義理とにひしがれてはこの骨々も砕くる思い。それほど切ない事ながら、知らぬ事は是非もなし。この上のお情けには、いっそ殺してくださんせ。」

 

・重忠に景清との出会いを尋ねられて

阿古屋「何事も昔となる恥ずかしいものがたり。~途中省略~下向にも参りにも道も変わらぬ五条坂、互いに顔を見知り合い、いつ近づきになるともなく、羽織の袖のほころび、ちょっと時雨の傘(カラカサ)お易い御用。雪の朝(アシタ)の煙草の火、寒いにせめてお茶一服、それが高じて酒(ササ)一つ。。。つづく」

 

・行方を知らぬとの言い訳は聞かぬ、そちは景清と度々逢おうがな、と詮議されて。

阿古屋「私はもとより河竹のあるが中にもつれない親方。目がしらを忍ぶ格子先、編み笠越しに『健(マメ)であったか?』『アイ、お前も無事に。』とたった一口言うが互いの比翼連理。さらばと言う間もないほどにせわしない分かれ路は昔のきぬぎぬ引き替えて、木綿々々と零落れし、身の果て哀れな物語。ああ、おはもじ。」